サカリンマキ総合学校を訪ねて

ユーリア・エンゲストローム教授にご紹介いただいて、ヘルシンキの東方、シポーにあるサカリンマキ総合学校(Sakarinmäki Comprehensive School)を、2013年5月20日(月)に訪ねました。午後2時、シポーに暮らすエンゲストローム先生と学校のメインエントランス前で待ちあわせ、校長のカイサ・アランネ先生(Kaisa Alanne)とお会いし、学校のお話をお聞きすることができました。

サカリンマキ総合学校は、7歳(1年生: フィンランドでは1年の就学前教育の期間を経て7歳で小学校入学)から16歳(9年生: 義務教育は日本と同じ9年)までの283人の子どもたちが通う、郊外の小さな学校で、19人の教師、2人の特別支援教諭、3人のアシスタントが勤めています。

2009年の夏から秋に建てられた校舎は、フィンランドで最も進んだ学校建築のひとつに数えられています。その素敵な校舎は、フィンランドの他の6校とならんで、2010年には第12回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展、2011年にはヘルシンキにあるフィンランド建築博物館主催の『世界一の学校』展(”The Best School in the World” exhibition)で紹介されました。

校舎は、サカリンマキ総合学校以外に、スウェーデン語を母語とする子どもたちのための9年制総合学校、保育所・幼稚園、子どもたちの放課後クラブ活動、コミュニティ・センターとしての集会所やレクリエーション施設などが集合する多機能型の地域拠点になっています。それぞれのユニットは、フィンランドの田園風景に最も象徴的な伝統的建物だった「納屋」を模して作られたもので、赤、茶、黄、灰とそれぞれがちがった色の建物になっています。ここには、消失してゆく地域の伝統文化や風景を受け継ぎ、その価値を今日の生活に取り込んで生かそうとする考えがあるように感じられました。

学校があるシポーはヘルシンキの中心から車で東へわずか20分ほどの場所ですが、自然がそっくりそのまま残されたようなところです。校舎はその自然の中で、森と野原の境界に作られたひとつの村のような趣をもっています。

サカリンマキ総合学校の校舎の中に入ってとても印象的なことのひとつは、外壁、そして教室と廊下の間の壁が、大きなガラスになっていることです。この「ガラス壁」を通して、建物の外にある周りの自然環境を見ることができ、自然光をたくさん取り入れることができます。建築上のコンセプトとしては、周りの森がまるで建物の内にまでやってきているような印象をもたらすということだと思います。エンゲストローム先生も、こうしたデザインが好きだとおっしゃってました。

サカリンマキ総合学校には、こうした素晴らしい建築とならんで、もうひとつ注目すべき取り組みがあります。それは、エネルギーの持続可能な利用が学校全体のテーマになっていることです。ヘルシンキの電力会社と協力し、学校で、太陽光発電(100-400平方メートルのパネル設置)など、再生可能な代替エネルギーを生み出し、来夏(2014年夏)には、校舎の暖房システムの実に80-100パーセントを学校自前で賄おうという計画です(エンゲストローム先生は、笑いながら、フィンランドでは暖房費が高いからね、とおっしゃってました)。こうした学校を拠点にした実験的なプロジェクトを梃にして再生可能エネルギーの生産に地域全体で取り組んでゆこうというのが、ここでの展望になっています。アランネ校長は、「持続可能な発展という非常に大きくて難しい問題を、教師と子どもたちがこうしたプロジェクトに参加することで学べることは、とても意義がある」と語ってくれました。また、環境問題に対する保護者の意識も大変高く、こうした学習に対する肯定的なフィードバックが保護者から多く寄せられているということでした。

こうして、今回の訪問を機に、学校の多機能性、開放性、透明性、柔軟性など、今後の比較研究のポイントが浮かび上がってきたように思います。