こっちのみーずは あーまいぜ
タイトルに挙げたのは童謡「ほたるこい」の一部だが、正確には「こっちの水は甘いぞ」である。甘いものを好むと言えばホタルよりはアリだろう。ドイツ語でアリはAmeiseと言い、「あーまいぜ」と発音する。この語はどこから来たのか。古くはameizenという動詞があったようだ(zは現代語のßに相当)。a-は離脱を表す接頭辞で、Ohnmacht「失神、気絶」(力を失う?)のOhn-に残っているという。意味から言ってabやohneと関係があるかと思ったが、別系統のようである。
さてameizenのmeizenは現代語にはないが、meißeln(のみで彫る)、Meißel(のみ)に名残がある。meizenは「切る」という意味で、ameizenは「切り取る」といったニュアンスになろうか。そこでアリであるが、体は昆虫らしく3つにくびれている。つまり3つにameizenされているのでAmeiseという名前になった。それではどの昆虫もAmeiseになってしまうが、そこは深く考えないことにしよう。ドイツ語で昆虫はInsektという。ラテン語のinsectumに由来する。これは動詞insecare(切り刻む、裂く)の過去分詞なので、こちらもまさに「(3つに)区切られたもの」である。
ハイデルベルク大学のR先生は授業でこの話題を取り上げた。アリ(Ameise)はameizenから来ているとし、さらに2つの説を挙げた。一つは上で述べた「体が区切られた」という解釈。もう一つはアリがえさをむしゃむしゃ食べている(かみ切っている)様子から来たという解釈。後者は「当て馬」「不正解選択肢」として先生が勝手に考えたものなのか、本当にそういう説があるのかわからない。ともあれ「体が区切られた」のほうが自分にはnachvollziehbar(追体験できる、言われて納得できる)とおっしゃっていた。
執筆:工藤康弘...