こっちのみーずは あーまいぜ

タイトルに挙げたのは童謡「ほたるこい」の一部だが、正確には「こっちの水は甘いぞ」である。甘いものを好むと言えばホタルよりはアリだろう。ドイツ語でアリはAmeiseと言い、「あーまいぜ」と発音する。この語はどこから来たのか。古くはameizenという動詞があったようだ(zは現代語のßに相当)。a-は離脱を表す接頭辞で、Ohnmacht「失神、気絶」(力を失う?)のOhn-に残っているという。意味から言ってabやohneと関係があるかと思ったが、別系統のようである。 さてameizenのmeizenは現代語にはないが、meißeln(のみで彫る)、Meißel(のみ)に名残がある。meizenは「切る」という意味で、ameizenは「切り取る」といったニュアンスになろうか。そこでアリであるが、体は昆虫らしく3つにくびれている。つまり3つにameizenされているのでAmeiseという名前になった。それではどの昆虫もAmeiseになってしまうが、そこは深く考えないことにしよう。ドイツ語で昆虫はInsektという。ラテン語のinsectumに由来する。これは動詞insecare(切り刻む、裂く)の過去分詞なので、こちらもまさに「(3つに)区切られたもの」である。 ハイデルベルク大学のR先生は授業でこの話題を取り上げた。アリ(Ameise)はameizenから来ているとし、さらに2つの説を挙げた。一つは上で述べた「体が区切られた」という解釈。もう一つはアリがえさをむしゃむしゃ食べている(かみ切っている)様子から来たという解釈。後者は「当て馬」「不正解選択肢」として先生が勝手に考えたものなのか、本当にそういう説があるのかわからない。ともあれ「体が区切られた」のほうが自分にはnachvollziehbar(追体験できる、言われて納得できる)とおっしゃっていた。 執筆:工藤康弘...
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Pizza Hut

コラム「二日酔い」で民間語源に触れた。いわゆる勘違いや言い間違いによって言葉が変わる、あるいは解釈が変わる現象は数多くあり、その話題だけで90分の授業になるだろう。ドイツ語でよく取り上げられるのは、ノアの箱舟で有名なSintflut(大洪水)である。Sintのtはわたり音として意味もなくくっついてきた音で(jemand, niemand, Axt, Obst, Palast, Dutzentなども参照)、sinは「絶え間ない」「強大な」といった意味を持つ接頭辞であった。したがって文字どおり「大洪水」なのであるが、sint-となった時点で、Sünde(罪)への類推が働いた。人類が犯した罪に対して神が起こした洪水と解釈され、近代に至るまでSündflutとも表記されていた。 さて、庶民が勝手に語源を解釈する民間語源は、言語変化を引き起こす場合もあれば、単に人々の意識の中に潜在的にとどまる場合もある。ドイツでなじみのスーパーマーケットにSPARがある。オランダ発祥で、かつては日本にも展開していたことがある。ロゴマークには緑色の木が描かれている。オランダ語でsparはモミの木、トウヒを意味する。一方、sparenという動詞がドイツ語にもオランダ語にもあり、「節約する」「蓄える」を意味する。ドイツで、ある人にスーパーSPARの名前がどこから来たと思うかと尋ねると、「ここで買い物をすると、お金の節約になるのだろう」という答が返ってきた。やっぱりね。ドイツ人にとってはsparenへの類推が働いてしまう。 もう一つまぎらわしいものにピザハット(Pizza Hut)がある。hutは小屋、山小屋だが、あのロゴマークは小屋というよりは帽子に見える。そして日本語ではhutもhatも同じ「ハット」になってしまう。というわけで、日本人の多くがピザハットを小屋よりは帽子と結びつけてもおかしくない。他方、ドイツ語でHutは帽子である。尋ねたことはないが、これだけ条件がそろえば、ドイツ人はPizza-Hutを帽子と結びつけているのではないだろうか。ちなみにドイツ語で小屋はHütteである。これがフランス語hutteを経て英語hutに受け継がれたようだ。 執筆:工藤康弘...
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