さて、大学院に進学するためには受験勉強をしなければならない。一般的には外国語の試験と専門の試験がある。外国語は英語と第二外国語(私の場合はドイツ語)の2つが課される。専門の試験ではドイツ語の和訳、作文そして基礎知識の3本立てが基本である。ドイツ語の読解は外国語と専門双方で課され、最も重要な試験である。ドイツ語ドイツ文学科に所属していれば、ふだんから読解中心の勉強をしており、特別に受験勉強をするということはない。ただ私の場合は大学4年次に、演習形式の授業は単位に関係なくすべて出席した。正直言うと1つだけ受講しなかった。それに対してもS教授は「出ればいいのになあ」と相変わらず厳しいことを言っていた(単位はみな取っているので、「なんで出ないんだ!」という言い方はさすがにしなかったけど)。こうして独文和訳漬けの生活にした。授業に出ることが受験勉強になった。これとは別に、すでに一度やった小栗浩『独文解釈の演習』(郁文堂)をもう一度引っ張り出して最初から勉強し直した。コラム「私のドイツ語勉強法」で述べたように、独作文の勉強もふだんからやっており、4年次にもそれを続けた。

 それまで何もやっていなかったのは「~について述べよ」という基礎知識の対策である。自分はドイツ語学(言語学)の勉強に重点を置いていたので、ドイツ文学には疎かった。一口にドイツ語ドイツ文学と言うが、まわりにいるのは圧倒的にドイツ文学の研究者であり、そのアンバランスは今も変わらない。基礎知識に関しても、ドイツ文学関連の出題が多いのではないかという、漠然とした思いがあり、受験勉強としてはドイツ文学に重点を置いた。方法としては『ドイツ文学史』(東京大学出版会)を読みながら、重要な箇所だけをまとめたダイジェスト版を作った。このダイジェスト版を徹底して暗記した。「ビーダーマイヤー期のドイツ文学について述べよ」「19世紀末のドイツ文学について述べよ」「ブレヒト演劇の特徴を述べよ」「ミンネザングについて述べよ」といった想定問答をあれこれ考えた。おかげで、読んでもいない小説について説明できるようになった。こうした文学史の勉強はその後、文学研究者との付き合いにおいて相手の話題に乗ったり、また授業においてこちらから話題を提供したりするのに役立っている。

 もちろん、ドイツ語学に関する受験勉強も多少はした。「第二次子音推移について述べよ」「中高ドイツ語の特徴を述べよ」「ヴァレンツ理論について述べよ」「生成文法について述べよ」といった想定問答もあれこれ考えた。大学の専門課程に上がってからは英語の文献を読む機会はめっきり減っていたので、改めて英語の勉強もした。高校の英文解釈の問題集を買ってきて1日1題、問題を解いた。まわりの学生は就職活動に奔走していたと思うが、私は4年次も変わらず、それどころか一層ギアを上げてドイツ語の勉強を続けた。以下ではいよいよ大学院の受験である。

執筆者:工藤康弘