ディズニーランドでおなじみのお化け屋敷、その英語名Haunted Mansionは昔から気になっていた。hauntedとは何ぞやということである。過去分詞は他動詞の場合は受動的な意味になり(die zerstörte Stadt破壊された町)、自動詞の場合は能動的な意味になる(das vergangene Jahr過ぎ去った年 = 昨年)。「あつものに懲りてなますを吹く」に対応する英語a burnt child dreads the fireを高校で習ったとき、英語の先生は「一度焼かれた子供は火を恐れる」と教えてくれた。ちょっと怖いが、受動的な意味を持つ過去分詞ということがよくわかる表現である。
 さてhauntであるが、オックスフォード英単語由来大辞典によると、もともと「(ある場所へ)よく行く」という意味であった。ちょっと珍しい用法である。中英語(1100~1500年)では「(幽霊、霊魂などが)よく現れる、出没する」のように、主語が限定されてくる。そんなわけでHaunted Mansionは「お化けに出られた家」ということになる。
 片やドイツ語で幽霊といえば、es spukt「幽霊がでる」という非人称表現が思い浮かぶ。他動詞ではないので無理かなと思いつつ、ドイツ人にein gespuktes Hausと言えるかと聞いたところ、お化け屋敷はSpukhausだと言う。そうきたか。過去分詞を話題にしようと思っていたのだが、うまく逃げられたような。spukenは名詞のSpukともども低地ドイツ(ドイツ北部)から広まったようである。英語にもspookがあるが、広く使われているのかどうか。
 hauntに戻ると、語源的にはhomeとも関係しているという。そこで思い出すのがドイツ語のheimsuchenである。この語にはあまりいいイメージがない。グリムの辞典によると、「ある人の家を訪ねる」、「神が恩寵をもって訪れる」「神が罰するために訪れる」に続いて「災いが訪れる」、「不意に襲う、急襲する」と来る。この最後の2つの意味が現代語の辞書には載っている。ただhauntと違って幽霊を主語にはとらないようだ。ein heimgesuchtes Hausはお化け屋敷にはならない。
 余談になるが、授業で18~19世紀のドイツ語を読むというテーマを掲げ、いくつかのテキストを読んだ。そのうちの二つが怪奇的なものであった。一つはE.T.A.ホフマンの「幽霊の話」(Eine Spukgeschichte)。『ゼラピオン同人集』という短編集に収められている。もう一つはハインリヒ・フォン・.クライストの「ロカルノの女乞食」(Das Bettelweib von Locarno)。二つとも短編ながら、ぞくぞくする筋の展開である。邦訳もあると思うので、読んでみてはいかが。
執筆:工藤康弘