私たちが研究の対象としているのは、セラミックスをはじめとする無機材料と、有機・無機ハイブリッド材料です。
 溶液を原料とする化学的な手法(ゾル-ゲル法)によってこれらの材料を作製し、新しい物性・機能を創出するための基礎科学と工学に取り組んでいます。

1.ゾル-ゲル成膜に関する基礎科学  / 2.新しい成膜プロセスの開発 / 3.新しい材料の開発
4. 過去に行っていた研究

部生向け参考動画(10 min)

1.ゾル-ゲル成膜に関する基礎科学 

‥‥「一体どうなってるの?」に答える

(1-1) ゾル-ゲル法により作製されるセラミック薄膜の面内応力に関する基礎的研究

 基材上に作製されたゲル膜を焼成してセラミック膜に変換する過程でおこる亀裂発生の直接的な原因は、膜の面内方向で発生する引張応力にあります。また、膜の面内方向に発生する応力は、基材の反りや膜の物性にも影響を及ぼします。亀裂発生や基材の反りを抑制する指針を得るために、さらには、応力制御による物性制御を可能にするために、応力発生に影響を及ぼす具体的因子を系統的に明らかにするための研究を進めています。

(1-2) 有機・無機ハイブリッド薄膜の限界厚さと硬さに関する基礎的研究

 1回の成膜操作で亀裂の発生を伴うことなく達成することのできる最大の膜厚を限界厚さといいます。有機高分子の共存下でシリコンアルコキシドを加水分解するという簡便な方法でコーティング液を作製し、そのコーティング液から作製される有機・無機ハイブリッド薄膜の限界厚さを支配する因子について、実験的に検討を加えています。
 また、それらの膜の硬さを支配する因子についても調べています。

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2.新しい成膜プロセスの開発

‥‥出来ないことを出来るようにする

(2-1) プラスチック表面にセラミック薄膜を作製する技術の開発
(特許第5924615号、特許第5717181号)

 プラスチックスを基材とするセラミック薄膜が、フレキシブル電子デバイスをはじめとするさまざまな応用分野で求められています。従来のゾル-ゲル法では、基材上に作製したゲル状薄膜を焼成する必要がありますが、プラスチック基材を焼成することはできないため、結晶性の高いセラミック薄膜をゾル-ゲル法によってプラスチック基材上に作製することができませんでした。本研究室では最近、ゾル-ゲル成膜と転写技術を組み合わせることによって、数十~数百nmの厚さをもつ各種セラミック薄膜をプラスチック基材上に作製することに成功しました。

(2-2) ポリシラザンをシリカ源とするハードコート膜ならびに新しいタイプの有機・無機ハイブリッド薄膜の開発

 ウェットプロセスにより作製されるポリシラザン薄膜にアンモニア水上で曝露処理を施すことによって、室温でシリカ薄膜が得られることを本研究室で見出しました。このシリカ薄膜は、従来のゾル-ゲル法により室温で作製されるシリカ薄膜よりも硬く、化学的耐久性に優れています。
 また、ポリシラザンが疎水性であるため、シリカ薄膜に有機分子を多量に導入することができます。
 さらに、プラスチック基材との高い密着性が実現できます。このような特性を活かし、プラスチックスのハードコート材の開発を進めています。

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3.新しい材料の開発

‥‥「こんな働きをする材料もできるんだね」を探して

(3-1) 新しいガラスとしての金属オキソオリゴマー集合体に関する基礎的研究

 本研究室では最近、いくつかの種類のキレート剤の共存下で金属アルコキシドを加水分解することによって、ガラス転移を示す金属オキソオリゴマー集合体が得られることを見出しました。熱可塑性にもとづく優れた加工性をもち、無機成分の物性に立脚した新しいタイプのガラス材料が創製されることを期待して研究を進めています。

(3-2) 新しい機能材料としての酸化物ゲル膜の開発

 ゲル薄膜を焼成することによりセラミック薄膜が得られるため、ゲル薄膜はセラミック薄膜を作製するための中間体にすぎません。しかし、ゲル薄膜そのものを機能材料として利用することができないか、検討を加えています。

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4. 過去に行っていた研究

(4-1) ゾル-ゲル法によって作製されるセラミック薄膜の限界厚さを大きくする方法の開発

 アルコキシド溶液にポリビニルピロリドン(PVP)を添加すると、ゲル膜の昇温過程で発生する面内引張応力が小さくなり、その結果、焼成過程での亀裂発生を抑制するのに有効であることを見いだしました。このことを利用し、従来法では0.1 mm程度であった限界厚さを1 mm程度まで大きくすることができることを示しました。
 ただし、コーティング液へのPVPの添加により、焼成膜の気孔率が増大する傾向があります。

(4-2) 複合酸化物薄膜を単一相化するためのゾル-ゲル成膜技術の開発

 コーティング液へのポリビニルピロリドン(PVP)の添加が、複合酸化物薄膜の単一相化を促す効果をもつことを見出しました。

(4-3) 金属塩水溶液をコーティング液として酸化物薄膜を作製する技術の開発

 従来のゾル-ゲル法ではアルコールを溶媒とするコーティング液が用いられますが、アルコールは揮発性に富み、製造現場では必ずしも望ましい溶媒ではありません。
 本研究室では、ポリビニルピロリドン(PVP)を添加剤とすることによって、金属塩水溶液や水を分散剤とする酸化物ナノコロイドをコーティング液とする技術を開発しました。

(4-4) スピンコーティング膜のradiative striation生成機構に関する基礎的研究

 スピンコーティング膜の表面には、基板の回転中心を中心として放射状に広がる凹凸(radiative striation)が発生することがあります。このradiative striationを表面あらさ測定によって定量的に評価し、さまざまな成膜上のパラメータがradiative striationの形成にどのような影響を及ぼすかを明らかにしました。

(4-5) 湿式太陽電池用光陽極薄膜の開発

 湿式太陽電池の一種である光電極は、「太陽光発電」と「水素エネルギー生成」という2つの側面をもつエネルギー変換材料として注目されています。本研究室では、Fe2O3やZnOへの異種金属酸化物の固溶によるエネルギー変換効率の向上に取り組みました。