三仏寺文殊堂・地蔵堂の楔の締め直し

 三仏寺は鳥取県三朝町に所在し、山中に境内があり、断崖絶壁に建つ美しい投入堂(奥の院)でよく知られています。本プロジェクトの調査対象である文殊堂と地蔵堂は、投入堂に向かう行者道の途中、入山口から1時間ほどの場所にあります。両建物とも、崖に張り出す懸造りとよばれる構造を持ち、柱と貫からなるジャングルジムのようなフレームによって支えられています。毎年、春に中国山脈から強い風が吹き下ろし、これらの建物が風によって揺すられ、柱と貫の接合部を固める楔が緩むそうで、お寺の方や周囲の方によって楔の締め直しが行われてきました。2016年の鳥取中部地震では楔がほぼ全て緩んだり外れたりしたため、締め直しが行われましたが、それ以降、締め直しが行われておらず、調査時には、一部の楔が緩んだ状態となっていました。

 本プロジェクトでは、建物の維持管理が構造的な健全性を回復するのにいかに有効かを調べることを目的に、楔の締め直しの効果を定量的に計測することとしました。お寺の方、地元の方に協力を得て楔の締め直しを行い、その締め直し前後で建物の振動を観測することを計画しました。観測データからそれぞれの状態における建物の揺れ方(固有周期や振動モードといった振動特性)を把握して比較することで、楔締め直しによって建物がどの程度硬くなったか(剛性の変化)を明らかにします。また、文殊堂と地蔵堂の両方でこの観測を行うことで、似ていながらも微妙に異なる構造を持つ二つの建物の揺れ方の違いも調べます。

  地震や強風の頻発する我が国において、伝統木造建築は長い年月をかけて災害に適応してきたと考えられます。しかし、それは建物の構造が持つ耐震性能や耐風性能といったハードの面だけでなく、建物を維持管理し、修理してきた周囲の人々の技術やシステムといったソフトの面もあると考えています。本プロジェクトでは、これまであまり学術的な関心が寄せられてこなかったこのソフトの面に着目し、調査を進めていきたいと思います。

関連ニュース