▶︎半導体について

半導体はそれ単独で販売されてはおらず、製品の中に埋め込まれているのであまり馴染みがないかもしれません。しかし、今や半導体無くして現代の高度な社会は成立しないと言っても良いくらいに私たちに身近なものなのです。半導体はパソコン、テレビ、スマートフォン、冷蔵庫、洗濯機といった家電製品に多く使われている他、IoTやAI、5Gなどがこれから進んでいく中で今まで半導体とは無縁だった物にまで半導体が内蔵されるようになり、その用途をもっと拡大していくと予想されます。世界半導体市場統計(WSTS)によると、2020年の世界の半導体市場は4500億米ドルと予測されており、2016年が3500億米ドルであったことを考えると益々成長していくものと思われます(日本はここ数年300億米ドル付近を保っています)。 半導体は導体と絶縁体の中間の性質を有する物質とされていますが、これを超砕いて説明すると、電気を通したり通さなかったりをそれ自身でできるモノです。もう少し具体的に言うと、電気の流れやすさである電気抵抗率を条件を与えてあげることによって変化できるモノです。この電気を制御できる性質が多くの場面で重宝されています。

▶︎何故“無機”半導体ではなく“有機”なのか

現代の情報化社会において、パソコンやスマートフォン、タブレット機器といった情報端末は必須の情報デバイスです。これらの幹部を構成しているのは半導体材料です。現在世の中で使われている半導体はほとんどが無機物です。無機半導体は化学的安定性と導電性が高い一方で、製造が大変で質量と体積が大きくなってしまうという欠点があります。そこで近年、無機化合物の代わりに有機化合物を材料とした半導体デバイスが多く研究されるようになってきました。有機材料を用いることで従来の無機材料では成し得ることができないことが可能になってきます。最大の特徴は、有機材料を有機溶媒に溶かし基材に塗布することで材料を基板上に成膜させ電子デバイスを作製する「塗布プロセス」ができる という点です。塗布法を利用することにより、印刷技術を使った成膜が出来るようになります。これは現在の成膜方法の主である蒸着法に比べ、ロスを大きく省きかつ大面積化することが出来るようになります。この特性のおかげで、無機材料よりも低コスト且つ低環境負荷のプロセスで柔軟性に富んだデバイスを曲面にまで作製できるようになります。そして、有機化合物は軽元素から成るのでより軽量になります。これらの特性はフレキシブルエレクトロニクスやウェアラブルデバイスを実現するのに非常に重要な要素になります。例えば、ただの円筒柱をデジタルサイネージにしたり、トンネルの曲面天井に作れば幻想的な画が生み出せるでしょう。一周ディスプレイの腕時計ができたり、電柱では電気をもらってそのままディスプレイ広告などもできるのではないでしょうか。試作段階を終えようとしている巻き取れる収納型ディスプレイも有機半導体だからこそ生み出せる代物です。車のダッシュボード上に大画面のカーナビを表示したり、有機センサーやフレキシブル有機回路と組み合わせた服ができれば、患者の体調変化を外部でモニターするといった医療分野での活躍も期待出来ます。「じゃあ、どうやって?有機物って熱とか酸素に弱いんじゃないの?そもそも絶縁体じゃないの?」。そこを一緒に解き明かしましょう。学部で学んだ有機化学が役に立ちます。それが構造有機化学です。 大学レベルになるとほとんどが最先端の研究です。私達はその中の「ぐにゃぐにゃ曲がるデバイス」を夢見る人達であり、それを可能にするのが有機化合物のうち半導体としての性質を持つごく一部の分子なのです。

塗布のイメージと作り出せる物

▶︎求められる移動度、熱安定性、溶解度

有機半導体のもたらす恩恵は素晴らしいものがありますが、半導体としての性質は無機半導体に軍配が上がります。物性についてですが、まず半導体材料の中でのキャリアの動きやすさを移動度と呼びます。移動度が高いほどより電流が流れると考えます。有機材料で移動度が1cm2/Vsあれば電子ぺーパーやディスプレイ、50cm2/Vsでウェアラブルコンピュータになれると言われています。熱安定性も大事な指標になります。電気が流れるプロセスにおいては熱が発生してしまいます。その熱にほとんど耐えられず壊れてしまっては、ディスプレイには到底なれません。これらは無機材料に匹敵する値が求められます。また、有機半導体独自の性質として、分子が溶媒に溶けないと塗布プロセスに適用できないので溶解度も凄く大事な指標になります。これらの条件を好ましく満足することを前提とし、合成の簡便さや閾値電圧に関しても実用的で有能な分子の研究が進められています。 これら移動度、閾値電圧、熱安定性、高溶解度を好条件で満たす分子を考える・作るのはとても大変ですが、私達はこの難題に挑んでいるというわけです。これを達成できた暁には、最高の半導体がそこに誕生したことになるのです!その瞬間を最も間近で目の当たりにするのは・・・・・・そんなの誰にもわかりません。

▶︎扱っている分子

π共役系が連続した「縮環π共役系化合物」です。p型、n型両方扱っており、低分子体の方が多いですが高分子体も扱っています。