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土地利用モデルと都市解析

 各家庭は何故引っ越そうと思うのか,どんな家を選ぶのか,どこに移り住むのかを分析します.具体的な都市をフィールドとし,実データを用いて,例えば,戸建住宅よりマンションを選ぶ人はどんな人か,高齢になった人が安心できる医療や福祉を求めて引っ越すとすればどんな所かなどを研究しています.
 また,この分析には,地理情報システム,いわゆるGISを用います.GISには,土木計画の観点から大きく次の2つの特徴があります.ひとつは,空間分析が可能となることです.都市を考える上で空間的な外部性は重要で,それは都市の形成要因そのものであるとともに,ほとんどの都市問題と何らかの関連があると言っても過言ではないでしょう.しかし,従来のように表計算や図表などを用いたのでは,必ずしも現実に即した空間分析はできません.しかし,GISが持つさまざまな空間分析ツールは,これを可能し,研究の幅が広がっていくと考えています.具体的には,空間分析が特に有効な,土地利用と交通の総合的な計画問題,および環境評価の問題に適用していくことを考えています.GISのもうひとつの特徴は,分析の飛躍的な迅速性です.さまざまな理論構築は,実証があって初めて説得力を持ちます.しかし,都市を取り巻く分析対象は複雑化しており,取り扱うべきデータも大量かつ広域にわたるものが多くなりました.そこで,特に,総合性や広域性が要求される郊外化問題,都心商店街活性化問題,都市交通計画などのGISを適用し,実際のデータに基づく具体的な提案を可能にするような研究を進めたいと考えています.

 

人口減少下での震災対策を中心としたレジリエント政策提案

 高い確率で発生することが予想される南海トラフ地震は,九州から関東に至る広範囲の沿岸地域に建物倒壊および津波被害をもたらします.その被害は,単に,震度や浸水被害地域分布からだけでは決まりません.また,事前の対応,直後の応急,その後の復興を考えたとき,社会状況や地域の特性によってかわるので,新しい脆弱性指標に基づく地域別類型化を行い,類型ごとに,被害を小さくし被災しても速やかに復興できるレジリエントな政策を考えます.
 同様に,南海トラフ大地震に対する被害という観点から,都市域が広がったままの場合や海岸から離れた場所にコンパクト化した場合,沿岸部に産業機能が広がる場合や産業そのものが衰退していた場合などで,その被害規模と復興力は変わるであろうと考えます.このようなさまざまなケースを想定しながら,総合的な震災対策を考え,政策を提案します.

 

健康まちづくり

 JR岸辺駅前に予定されている国立循環器病研究センターと市民病院の移転に伴い,健康をキーワードとしたまちづくりが期待されています.健康コミュニティは,コミュニティ単位で健康について考え,生活をデザインしていく社会集団です.健やかな生活行動,病気にならない生活習慣,治療後の早期回復・リハビリなどをまちとしてどう支えていけばよいか考えます.
 また,日常の健康を考えると,通勤・通学や買物などの普段の生活を続けていくうちに,知らず知らずのうちに無理なく歩くことで健康になるまちを計画することが重要です.医療や介護サービスに気軽にアクセスできるまち,心の豊かさを感じられるまち,そのようなまちを都市計画のひとつとして進めていくための評価指標を体系的に開発して,具体的なまちを評価します.

 

住民参加型まちづくり

 まちづくりには,住民参加が重要であるとの認識が広まりました.しかし,いずれのまちでも,当初の熱い思いだけでは立ち行かなくなってきたのも事実ではないでしょうか.人・場所・金・情報といった多くの住民参加団体が直面している課題に,行政や市民公益団体がどのように支援し,各団体同士が連携して助け合っていけばいいかを考えます.関心はあるけれども踏み出す勇気がない人,とりあえずやってはみたもののその先どうすればいいかわからいない人,長い間続けてきたけれども後継者が育たなくて困っている人など,色々な局面の人に適切に支援をするには,交流や情報交換の場がハード面でもソフト面でも必要です.色々な担い手たちと相談しながら,どのようなしくみが効果的か考えます.

 

社会資本事業の評価・手法・政策に関する研究

 PPP/PFIは,公共事業に民間の技術やノウハウを導入することを目指した仕組みであり,今後も,どのような形になるにせよ,社会資本整備に欠かせない考え方になると考えます.このときに重要なことは,社会資本の公共性を維持しつつ何をどこまで民間に任せるかを定めることです.また,民間に委ねるとすると,それ以前に重要視されなかった情報や評価が求められます.このため,公共と民間が効果的に協働していくための評価や手法を研究し提案しています.
 特に,着目しているのは,公会計手法の提案です.現在,地方自治体の真の財政状況を知る目的で,公会計に企業会計的手法を取り入れる自治体が増加しています.そこで,それに加えて,費用便益分析で対象としている経済便益および費用をも導入した自治体会計を提案しています.これにより,金銭的な投資をつぎ込んだにもかかわらず実際に便益を発生させないような非効率な投資を続けてきた自治体を評価することが可能であり,自治体の真の価値を知ることが可能になります.また,公共施設の統廃合や再配置計画などにもこのような公会計の仕組みが有効であり,単に財政支出の削減だけを目的とせず,住民サービス水準と比較しながら統廃合や再配置を進める道具として使えるものを提案したいと思います.