研究背景


近年,無線システムが急速に発展し,周波数不足が懸念されている.この問題を解決する為,我々は同時に利用可能な異種無線メディアを組み合わせて活用する複合無線アクセスネットワーク(以降,CWAN:Composite Wireless Access Networks)を提案している.本方式は従来方式と比較して高いスループットと低い遅延時間を実現できる.本方式では,無線アクセスネットワークを構成する複数の異種無線メディアにパケットを分配するが,その際パケット到着乱れが発生し,Transimission Control Protocol(以降,TCP)において有効なデータフローを提供できない可能性がある.

複合無線アクセスネットワークの構成


下図を用いてCWANを説明する.各MNは無線メディアとして,LTE,WiMAX,Wi-Fi を装備しているとする.MN1はAP1, AP2, AP3の無線カバレッジ内にあり,WiFi, WiMAX, LTEが利用可能である.MN2はAP2, AP3の無線カバレッジ内にあり,WiFi, WiMAXが利用可能である.MN3はAP3の無線カバレッジ内にあり,LTEが利用可能である.CWANはこれら複数の無線メディアを集約し,並列利用することが可能であるため,MN1とMN2は複数の無線メディアを利用する.また,MN3は単一の無線メディアを使用し通信を行う.すなわち,CWANは複数の利用可能な無線メディアを集約して,CWANは従来の無線アクセスネットワークに比べ,高スループットかつ低遅延な広帯域通信実現を可能とする.

複合無線アクセスネットワーク構成図(画像なし)

複合無線アクセスネットワークにおけるパケット到着乱れ


CWANはCompositeレイヤで集約する無線リンクにパケットを分配する.しかし,パケット分配した無線リンクは,異種の無線メディア(送信速度,送信手順が異なる)であり,また通信状況(競合するノード数や通信データ量など)も異なる.従って,パケットが送信順に到着することが保証されない.パケットが送信順に到着しない場合,上位レイヤのデータフローとして無効になる可能性が高く,複数の無線メディアを集約した効果を得られなくなる問題がある.

複合無線アクセスネットワークにおけるパケット到着乱れ(画像なし)

パケット到着乱れがTCPに与える影響


CWANのパケット分配において,先発パケットが通信速度の遅い無線メディアに分配され,後発パケットが速い無線メディアに分配された場合,パケット到着乱れが発生する可能性がある.パケット到着乱れによりTCPにおいてデータセグメントの追い越しが発生するとTCPは再送を要求する確認応答を送る.この確認応答が3回連続するとTCPは輻輳発生と判断し高速再送制御を実施する.高速再送制御はTCPの輻輳ウインドウを半減して送信を抑制する.従って,CWANにより複数の無線メディアを集約し,帯域を拡大しても,TCPはCWANによるパケット到着乱れを輻輳と判断して送信を抑制する.さらに,TCPにおいて再送制御のためのパケットにより帯域を浪費する.すなわち,広げた帯域を有効活用できないことになり,上位アプリケーションの通信性能の向上が図れない.

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複合無線アクセスネットワークがTCPに与える影響


研究目的


本研究では,TCPを使用した移動通信環境におけるCWANのシミュレーション評価からパケット到着乱れの通信性能への影響を報告し,その影響に基づき移動通信環境における複合無線アクセスネットワークの有用性を議論する.

シミュレーション動画

CWANのシミュレーション動画です.
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